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情報技術によってアップデートされた社会派推理小説「ビックデータ・コネクト」

PRTIMESのエンジニア深川です。毎度のIT系読書感想になります。

今回は「Gene Mapper」、「アンダーグラウンドマーケット」、「オービタル・クラウド」など、ソフトウェア技術を活用したSFミステリーに定評がある藤井太洋さんのビックデータ・コネクトを紹介します。

2015年ベスト小説なんて紹介も各所でされてしまったところの出遅れ気味の感想ですが、ぜひ未読のITエンジニアには読んでほしいと気持ちで感想とともに紹介します。

■目次

  1. 紹介書籍のあらすじ
  2. 他の方の感想
  3. 自分の感想
  4. 参考

■1. 紹介書籍のあらすじ

内容紹介
いま、そこにある個人情報の危機を描く警察小説

公立図書館の私企業との提携を進めるエンジニアが誘拐された。サイバー犯罪捜査官とはぐれ者ハッカーのコンビが個人情報の闇に挑む。
内容(「BOOK」データベースより)
京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の捜査は進歩的市長の主導するプロジェクトの闇へと…。行政サービスの民間委託計画の陰に何が?ITを知りつくした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。

[> http://www.amazon.co.jp/dp/4167903288 >]

■3. 自分の感想

マルウェアによるパソコン遠隔操作事件の取り調べから始まり、そこから振り込め詐欺、行政の民間委託施設のシステムの開発現場で起こった誘拐事件の捜査を進めるうちに事件を追う主人公達は……」という、ニュースなどで聞いたことのあるキーワードがふんだんに入ったあらすじはフックがとても効いていると思いませんか?本書は、その期待を裏切ることはない名作です。


私も、前職などで個人情報を取り扱うシステムの開発に携わると何をもって個人情報とするかという定義について法やシステム的な定義に触れることがあり、ユーザとしてサービスを利用するために個人情報と行動履歴を渡したりしていると、運営会社が所有している複数のサービスの情報が紐付いた場合、どのように個人が定義されるのか、というようなことを考えることがありますが、マイナンバーの発行と利用が始まった今に本書を読んでみると、個人情報にまつわる様々な要素を緊迫感のある犯罪小説に構成されていることに唸る次第です。


読了後には普段のスマホやネットや会員サービスの利用について、違った見解と一段と深い興味を持てるスリリング内容です。


また、人月的に大規模なシステム開発で多々起こりうる問題について、登場人物がその現場に赴くことで、その様々な問題を見ることになるのですが、このあたりの描写もITエンジニア的にあるある感が満載です。それも単なるネタではなく犯罪小説として重要な要素になるので、読んだときのお楽しみに。


著者もインタビューで答えていますが、
http://hon.bunshun.jp/articles/-/3604?page=2
パスワードは推測されない、暗号は解読されない、スーパーハッカーによるご都合展開をしない、など、情報技術を使ったフィクションで良く見られる虚構的要素が極力排除され、現実の技術の延長線上にある情報技術描写はITエンジニアが読んでも鼻白むことはありません。


「社会派推理小説」とは、「荒唐無稽なトリックを否定し、現実性のある社会性の強い題材をあつかい、動機を重視した推理小説」とされています。本書は前述した通り、「(情報技術の)荒唐無稽なトリックを否定し、(システム開発やシステムや行政に紐付けられた個人情報という)現実性のある社会性の強い題材をあつかい、動機を重視した(2015年に書かれた最新の)推理小説」として、私は本書をとてもおすすめできます。


予定されているという続編も非常に楽しみです。